2018年9月の北海道胆振東部地震で大きな宅地崩壊と建物被害が発生した札幌市清田区美しが丘地区の地盤補強工事が今年6月ごろから始まります。どんな対策工事を行うのでしょうか。

暗渠管埋設箇所(赤線で表示)(札幌市作成の資料より=以下同じ)
地震被害の発生地区は、清田区美しが丘3条6丁目、同1条7丁目、同2条7丁目の一帯で、国道36号線と羊ヶ丘通を結ぶ里塚循環道路の両側の住宅街です。
里塚循環道路の下は、三里東排水という暗渠河川が流れていて、かつては三里川支流が流れる沢地でした。川と沢を埋め立てて道路を造り、宅地が造成された地区です。
今回の地震によるこの地区の建物被害は160棟に達したといいます。また、この地区では2003年の十勝沖地震の際も液状化と思われる住宅の傾き被害が発生しています。

美しが丘地区の被害状況

美しが丘地区各所の被災メカニズム
札幌市の調査と分析によると、この地区の被害発生メカニズムは、①液状化による地盤の沈下②旧沢筋(旧川筋)に沿った地形の変形―とのことです。
では、なぜ、そのような地盤の沈下と変形が起きたのでしょうか。札幌市の分析によると、①高い地下水②緩い地質③傾斜地―この3つが要因とのことです。
この地区の地下水位は、概ね地下3メートルよりも浅く、地表に近いそうです。市によると、液状化は地下水位が3メートルより浅いと起きやすいそうです。
緩い地質というのは、大きな被害が出た里塚地区と同様に、沢と川を火山灰質の土壌で埋めた盛り土ということです。
また、全体に傾斜地であったため、高い羊ヶ丘通側から低い国道36号線方向に横方向の地形変形が発生したといます。

旧沢筋(旧川筋)に沿った盛り土全体の変形

切盛り境界における地盤の変状(盛り土側の道路が沈下)
また、美しが丘3条6丁目の里塚循環道路沿いの住宅被害は、高い地下水等の要因に加えて、「切盛り境界における地形変形」が起きたといいます。切盛り境界とは、切土と盛り土の境のことです。住宅側が切土、里塚循環道路が盛り土で、盛り土側が地震で沈下して地盤が傾いたという分析です。
こうした分析の下、市は、里塚地区のような薬液を地中に注入する地盤補強は行わないものの、地域一帯の地下水位を低くして液状化を起きにくくする対策工事を行うことにしました。
地下水位を下げる方法は、一帯の道路に暗渠管(有孔管)を埋設し、地下水を集水して地域全体の地下水位を3メートル以深に下げるというものです。細かい穴の開いた暗渠管で地下水を集め、三里東排水に流すそうです。

道路下に暗渠管(有孔管)を埋設し、地域全体の地下水位を下げる工事
暗渠管はあくまで道路下に埋設し、宅地の下には埋設しません。それでも「地域全体の地下水位低下効果はある」と、市では言っています。
穴の開いた暗渠管でうまく地下水を集めて排水できるのか、ちょっとよくはわかりませんが、市が言うのですから、きっと効果はあるのでしょう。
地下水位を一気に低下させると、地表面の沈下が起きる恐れがあります。これを防ぐために、施工後半年から1年かけて徐々に慎重に地下水位を下げていくそうです。

半年~1年で地区内全てで地下水位を3m以深にする
また、美しが丘3条6丁目の切盛り境界における道路部(里塚循環道路)の対策としては、道路下の砕石を厚くし、変形を抑制するシートを道路下に敷設する等の工事を予定しているそうです。

切盛り境界における道路部の対策工事
こうした対策工事は今年2020年6月ごろに着工し、2021年3月までに大方終える予定です。
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