北海道新聞1月8日朝刊1面トップ記事「五輪招致 札幌市民67%反対」は、大変インパクトのある衝撃の記事でした。

「五倫招致 札幌市民67%反対」を伝える北海道新聞=2023年1月8日

 この道新の世論調査記事を見て、「これでは札幌五輪は無理ではないか」と思った人は多かったでしょう。そして、この記事の衝撃は、瞬く間に全国に広がりました。

 しかし、道新の世論調査は3週間も前の昨年12月16日~18日に実施したものでした。通常、北海道新聞は、この種の世論調査の記事は、調査後、直ちにとりまとめ、報道しています。

 それなのに、なぜニュース性抜群の「五輪招致 札幌市民67%反対」の記事を、北海道新聞は3週間近くも伏せて報道しなかったのでしょうか。

 昨年12月21日、北海道新聞は12月16日~18日に行った世論調査の結果として「鈴木道政 支持70%」という記事を1面に掲載し、2面には「札幌市長不支持40%」という記事を掲載しました。

 この時、「あれ、札幌五輪招致の賛否も通常は一緒に調査するはずなのに、どうしてその記事はないのだろう」と不思議に思いました。何か忖度か事情があって調査しなかったのかな、とモヤモヤした気分で年を越しました。

 北海道新聞はこれまで、道知事と札幌市長の支持率を世論調査する場合、必ず道民の関心が高い問題について同時に質問し、紙面で報道してきました。それだけに、不思議でした。

 すると、年が明けてしばらくたった1月8日、前述の記事「五輪招致 札幌市民67%反対」が1面トップに掲載されました。「やっぱり札幌五輪の調査もしていたんじゃないか」と紙面を見て思いました。

 でも、「67%が反対」という結果は、とてもニュース性があり、普通の記者感覚なら「一刻も早く報道したい」と思うはずです。なぜ、3週間近くも掲載を見合わせていたのでしょう。こんなことは通常はあり得ません。

 2022年4月8日~10日に実施した北海道新聞世論調査の場合、3日後の4月13日の1面に「鈴木道政 支持81%」と「札幌市民 五輪反対57%」という記事を同時掲載しています。

 2021年の場合も、世論調査を4月2日~4日に実施し、3日後の4月7日の1面に「鈴木道政支持85%」という記事を掲載し、2面に「札幌五輪招致 反対派が逆転」という記事を載せています。

 今回のように、3週間近くも寝かせるなんてことはありません。他の新聞社が同じような世論調査をして、先に報じたら目も当てられないからです。さらに、もし、3週間の間に、何か大きな状況変化があったなら、せっかくお金をかけて実施した世論調査結果が無駄になってしまうリスクもあるからです。

 今回は、他社がこの時期に同じような世論調査をせず、また大きな状況変化もなかったので、「市民67%が反対」の鮮度(ニュースとしての商品価値)は幸いにも落ちず、インパクトのある記事となりました。

 ところで、世論調査がまとまった頃、札幌五輪招致をめぐって大きな動きがありました。

 それは、12月20日、秋元克広札幌市長が東京で記者会見し、「五輪招致の機運醸成活動を休止する」と発表したのです。これと、道新の世論調査結果「市民67%反対」が何らかの形で関係あるのか、分かりません。しかし、ひょっとしたら何らかの関係があったのかもしれません。そう思ってもしまいます。

 秋元市長の会見を受けて12月21日、北海道新聞は1面トップで「五輪招致 機運醸成を休止」と報じました。そして、鈴木道知事や秋元市長の支持率の世論調査結果の記事も、まさに同じ12月21日の紙面なのです。

 通常なら、ここに「市民67%反対」の記事も掲載されるところですが、見送られました。「機運醸成活動の休止」という札幌市の大きな方針転換の記事と一緒に載せることを何らかの理由で避けたのでしょうか。

 「機運醸成活動の休止」と「市民67%反対」が同じ日の紙面に掲載されていたら、「秋元市長は、追い込まれて機運醸成休止に至った」感が強まったかもしれません。それを避ける配慮をしたのでしょうか。そんな憶測さえ生まれてしまいます。

 あるいは、秋元市長サイドに道新の「市民67%反対」という世論調査結果(道新社内では12月20日には結果がまとまっていたはずです)が事前に伝わっていた可能性はないのでしょうか。もちろん北海道新聞は「ない」というに決まっています。でも、秋元市長側にとっては、道新の世論調査結果は是が非でも欲しい情報だったでしょう。

 それが12月20日の「機運醸成活動の休止」発言時に秋元市長側に伝わっていたかどうか分かりませんが、少なくとも、秋元市長が1月8日の道新朝刊を見て初めて「市民67%反対」を知ったなんてことはないはずです。市長サイドも日々、必死の思いで情報収集をしているはずです。

 一方で、次のような「紙面制作上の理由」という見方もあります。道新関係者の話です。

 「1月1日の紙面に、札幌五輪招致の行方や競技場問題などについて秋元市長のインタビュー記事(インタビューは昨年12月27日に実施)を載せたほか、見開き2ページを使って札幌五輪招致特集の紙面展開をしました。こうした正月の紙面は12月の早い段階で企画し、取材し、記事を書き上げます。年末に『市民の反対67%』を紙面に出してしまったら、それを受けて新年特集記事は書き直さなくてはならなくなります」

 もし、そうであるなら、やはりおかしい。「市民反対67%」をいち早く紙面に出して、新年特集は、「反対67%」という新しい情勢下での紙面展開をしてほしかったと思います。日刊の新聞なのですから。

 北海道新聞は、「反対67%」を受けて1月9日、社説「札幌冬季五輪招致 白紙から考え直すべきだ」を掲載しました。社説を読む限り札幌市に忖度することはなさそうです。さすが道新という感じでしょうか。

 しかし、なぜ、「札幌市民 67%反対」の記事を長く見合わせたのか。真相は分かりません。モヤっとしたままです。

 札幌五輪招致の動きは日々刻々と動いています。札幌市長選挙の最大の争点にもなっています。札幌市民、北海道民の関心の高い問題です。速やかな報道を期待しています。

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