札幌市は1月25日(水)、第120回札幌市都市計画審議会をニューオータニイン札幌(札幌市中央区北2条西1丁目)で開催しました。

■イオン平岡店が増設・増床へ 札幌市都市計画審議会が同意

札幌市都市計画審議会=1月25日、ニューオータニイン札幌

 同審議会は、イオン平岡店の土地の用途地域を「第2種中高層住居専用地域」から一気に4ランクも規制が緩い「近隣商業地域」に変更する札幌市の計画に同意しました。

 この結果、従来は「第2種中高層住居専用地域」の規制で1㎡の増築・増床もできなかったイオン平岡店ですが、札幌市が「近隣商業地域」に変更したことにより大幅な増築・増床が可能になりました。

イオン平岡の増設増床イメージ図(札幌市が都市計画審議会に提出した資料より。実際の整備内容と異なる可能性もあるという)

 これにより、イオン北海道はイオン平岡店の駐車場敷地に新たな商業棟を建て、現在全く手が付けられていない樹林地(イオンの森)の一部にも店舗を新設する計画です。

 しかし、なぜ「第2種中高層住居専用地域」だったイオン平岡店の土地が、一気に「近隣商業地域」に変更できたのでしょうか。そこには、とってつけたような札幌市の詭弁の論理がありました。

■従来の方針と真逆の決定

イオン平岡店

 もともと札幌市は、住宅街の中にあるイオン平岡店の増床を認めない姿勢でした。

 札幌市は2007年、イオン北海道からイオン平岡店の増床申請に対して、「都市計画の中で、これ以上の商業施設の集客環境を作るのは好ましくない。他の既存商業施設にも影響が出る」として、これを不許可にしたのです。

 そして当時の上田文雄市長は記者会見で、こう述べました。

「イオンの増床問題につきましては、過日、建築許可の申請がございまして、それについて不許可という決定を出させていただきました。その理由は多岐にわたりますけども、一番大きな部分は、都市計画の中でこれ以上の当該地域に集積といいますか、商業施設の集積、すなわち集客、人の流れといいますか、あそこは車で行くことが前提になります。車の駐車等が非常に多くなるわけでありますので、そういう環境をあそこにつくるのは好ましくないというのが、札幌市の長期的な都市計画の中で、そのような考えを持っているというのが一番の大きな理由だとお考えいただきたい」

 今回の札幌市の決定は、従来の札幌市の方針とは真逆の決定です。この方針を覆すにはそれ相当の理由がなくてはなりません。

 では、イオン平岡店付近の地域状況が当時と今で大きく変化したということはあるでしょうか。ありません。「相当な理由」がないために、市は「イオン平岡店も地域交流拠点清田の一部だ」という驚くべき理由をでっち上げたのです。

■「イオン平岡店も地域交流拠点清田」というこじつけ

 札幌市(まちづくり政策局)は、「2007年の時は、イオンは増床だけを言ってきたが、今回は『地域交流拠点清田』の機能を補完し、清田のまちづくりに寄与するとしている。この点が2007年の時と違う」と説明しています。

 しかし、これは区民をあまりにもバカにした説明です。イオン平岡店と地域交流拠点清田は距離が離れていて、イオン平岡店を増床増設しても、その人流が清田地区に波及する保証など何もありません。「地域交流拠点清田を補完するなどということは、とってつけたような屁理屈」と、専門家は指摘します。

 札幌市は、地域の中心核となる市内17か所(※)を地域交流拠点と定め、地域交流拠点を中心に各地域のまちづくりを進めています。

(※)地域交流拠点 新さっぽろ、大谷地、福住、月寒、白石、平岸、澄川、真駒内、光星、栄町、北24条、麻生・新琴似、篠路、琴似、宮の沢、手稲、清田

地域交流拠点清田の清田地区

 地域交流拠点清田はこの17か所の拠点の1つで、国道36号線と厚別滝野公園通が交差し、清田区役所や西友清田店などがある地区のことを指しています。

イオン平岡店(平岡3条5丁目地区)と清田地区との連動図(札幌市作成)。「清田で行政手続してから平岡で食事」とか「平岡で買い物してから清田へイベント参加」とか、まるで清田地区には商業施設も飲食店もないかのような書き方。抽象的で空疎な言葉が並ぶ。これで地域交流拠点清田ができるのですか。

 イオン平岡店の真ん中付近から地域交流拠点清田の西友清田店まで、北野通経由で歩くと2.4キロメートルあります。とても歩いて行き来できる距離ではないし、両地域は一体感のある地域とは言えません。

 それなのに、札幌市はイオン平岡店を地域交流拠点清田に無理やり組み込んで、今回の計画を決めてしまったのです。

これも札幌市が作成したイオン平岡と清田地区の連動図。現実感のない意味不明の言葉が並んでいる

 そして「増設したイオン平岡店の人流を地域交流拠点に波及させる。距離が離れているので、両区間にバスを走らせる」などと言っていますが、ばかばかしいにもほどがあります。

 イオン平岡店に来た客が、なんで用もないのにわざわざバスに乗って清田区役所や西友清田店などがある所まで行くのですか。

 むしろ、地域では「これでますます人の流れがイオン平岡店に行ってしまい、地域交流拠点清田は、むしろ寂れてしまうのでないか。拠点の形成が遠のいてしまうのではないか」という不安が高まっています。

 札幌市は、用途地域指定の基本的な考え方をまとめた「地域地区指定標準」で、地域交流拠点17か所の用途地域を原則「近隣商業地域」にすると定めています。

 イオン平岡店のある平岡3条5丁目地区は、従来は「第2種中高層住居専用地域」でしたが、強引に「地域交流拠点清田」に入れた結果、市の「地域地区指定標準」により、商業施設をいくらでも増設・増床できる「近隣商業地域」に変更できるというわけです。

■ごまかしの構図

 結局、今回の構図は以下の通りであると判断せざるを得ません。

 イオン北海道が求めるイオン平岡店の増設・増床が出来るようにするには、用途地域を「近隣商業地域」にする必要があった。そのために、いくら距離が離れていようと強引に「地域交流拠点清田」にイオン平岡店を組み入れてしまう必要があった。そして、「イオン平岡店の人流を清田地区に波及させて地域交流拠点清田を補完する」という無理なこじつけ話を創作した。

 これが真相じゃないですか。

 札幌市は、イオン平岡店の増設・増床のために「地域交流拠点清田」をダシに使ったとしか思えません。違うというなら、「イオン平岡店の増設増築が、どうして地域交流拠点清田の形成、にぎわい増加につながるのか、市はきちんと納得できる説明をしてください。市にいくら聞いても説得力ある回答はなく、疑問は消えません。

 札幌市内の専門家は「この計画は酷い。得するのはイオンだけですよ」と呆れています。なぜ、そこまで札幌市はイオンを特別優遇するのか、摩訶不思議です。

■西友清田店が入っていない不思議

 札幌市は「官民連携で地域交流拠点清田のまちづくり」を進めると言っています。ここでいう「官」とは札幌市、「民」とはイオンだけです。

 でも、おかしいじゃないですか。地域交流拠点清田のど真ん中に位置する大型商業施設は西友清田店ですよ。それなのに西友清田店は全くの蚊帳の外です。商業施設と連携するというなら、本来なら西友清田店こそ連携相手ではないですか。「西友清田店を入れない地域交流拠点清田のまちづくり」って、誰が考えたっておかしいでしょう。

 秋元札幌市長さん、そう思いませんか。

今年も西友清田店前で開催された「まちの灯りアイスキャンドル」=2023年1月28日

 西友清田店は、毎年1月に清田地区商工振興会が西友清田店前で開催する「まちの灯りアイスキャンドル」というイベントに協賛。地味ながらも地域交流拠点清田を盛り上げるのに一役買っています。それなのに、市は地域交流拠点清田のまちづくりに西友清田店を入れず無視し続けているのです。こんなバカな話ってありますか。

■用途地域

 ところで、今回、問題になっている「用途地域」とは何でしょうか。一般にはなじみの薄い言葉なので、ここで簡単に説明しましょう。

 それは土地利用と建物建設の規制・誘導を通して秩序あるまちづくりを進める都市計画法上の制度です。札幌市は次の12の用途地域を定めています。

第1種低層住居専用地域
第2種低層住居専用地域
第1種中高層住居専用地域
第2種中高層住居専用地域
第1種住居地域
第2種住居地域
準住居地域
近隣商業地域
商業地域
準工業地域
工業地域
工業専用地域

 イオン平岡の用途地域は今回、「第2種中高層住居専用地域」から一気に4ランクも規制が緩い「近隣商業地域」にランクアップしました。

 都市計画の専門家に聞いたところ、「一気に4ランクも上がることなんて聞いたことがありません」という声が聞こえます。

■札幌市都市計画審議会

 今回のイオン平岡店の用途地域変更に同意した札幌市都市計画審議会の委員は、学識経験者9名、市議6名、関係行政機関3名、公募で選ばれた市民6名の計24名。委員の名簿はこちらです。1月25日の審議会当日、4人が欠席したようですが、出席した委員全員が市の計画に同意しました。

 審議会の決定は残念ですが、審議会は札幌市の資料と説明で審議するので、大体は市の計画を追認することで終わってしまうようです。

 ただし、委員からは「地域交流拠点清田の機能向上に、平岡地区を整備するというのは、いささか正攻法ではないと思える。A地区の活性化のために、A地区そのものではなくB地区を活性化するというのは」という意見も出ました。何か変だなと、感じた委員もいたようです。

■必要なのはイオンではなく地下鉄駅とバスターミナル

 イオン北海道とイオン平岡店の現場の社員の方は、地域に親しまれるいい店づくりをしようと頑張っていることでしょう。

 しかし、イオン平岡店の店づくりや増設・増床は、地域交流拠点清田とは別にやればいいことです。札幌市が無理に結びつけるから、おかしなことになってくるのです。

 1月12日、清田区民センターで開催された市の説明会でも、参加した地元住民から「イオン平岡店の話と地域交流拠点清田の話は別のものだ」という意見が相次いで出ました。

 地域交流拠点清田を本当に形成しようとするなら、「地下鉄駅とバスターミナルからなる交通結節点」の開設が必須です。それに真正面から向き合う議論こそが必要です。

 札幌市が「イオン平岡店と連携」などと言っていることで、本来向き合うべき地下鉄延伸から目をそらすことに結果としてなっています。地域ではこうした不満も高まっています。

 清田以外の16の地域交流拠点は、すべて地下鉄駅(またはJR駅)とバスターミナルがセットになった交通結節点です。だから地域の人が集まり、交流が生まれるのです。札幌市は清田以外では、すべてそういうまちづくりをやってきたのです。

 清田だけ、なぜやらないのですか。だから清田だけ、いつまでたっても地域交流拠点が形成できないのです。ほかはみんな地下鉄駅とバスターミナルの交通結節点なのに、清田だけ距離の離れた「イオン平岡店と連携」って、一体、何ですか、これ。

 「地域交流拠点清田のために、イオン平岡店を増築増床させて、交流拠点清田に賑わいを波及させる」という札幌市の計画(妄想)が、いかに現実味がないか。先の説明会でも多くの住民が指摘し、疑問が噴出しました。

 清田地区商工振興会の山田敏夫会長は「うちは120年前に清田に開墾に入り、今は商店をやっているけど、清田でこういうばかげた話は120年間で初めてだ」と憤慨し発言していました。

 地域交流拠点清田の問題を真剣に考え、今日、クローズアップさせてきたのは、清田まで地下鉄延伸を粘り強く訴え活動してきた地下鉄東豊線建設促進期成会連合会(会長:牧野晃清田地区町内会連合会顧問)です。

地域交流拠点清田に地下鉄駅とバスターミナルの設置を要望する地下鉄東豊線建設促進期成会(右側)。左側中央は秋元市長=2022年9月21日

 地下鉄東豊線建設促進期成会連合会は、清田区5町内会連合会、豊平区5町内会連合会、清田地区商工振興会、札幌清田ライオンズクラブ、札幌清田ロータリークラブ、つしま医療福祉グループの計14地域団体で構成し、毎年、「地下鉄を清田まで延伸させ、地域交流拠点清田に地下鉄駅とバスターミナルを設置すること」を、札幌市長に直接会って要望してきました。

 地域の中心核には、市内の他の地域交流拠点と同様に地下鉄が不可欠だと期成会内で議論し、市に要望してきたのです。

 「イオンとの連携」など要望したことはありません。

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