札幌市は、札幌ドームの駐車場をつぶして新月寒体育館(通年型アイスリンクと多目的アリーナ)を建設する方向で最終調整しているという報道がありました(北海道新聞9月26日)。テレビ各局も同様の報道をしました。
しかし、札幌市はこれまで新月寒体育館の建設場所は、札幌ドーム隣接の北海道農業研究センターの土地を候補としていました。札幌ドームの南東側=清田側に当たる土地です。そのうえで秋元市長は「その土地活用を見て地下鉄清田延伸について検討する」と、地下鉄東豊線建設促進期成会連合会等に発言してきたのです。
札幌ドームの駐車場に新月寒体育館を建設するという話は今まで全くなく、あまりに突然かつ唐突です。
現在の月寒体育館(豊平区月寒東1条8丁目、地下鉄「月寒中央」駅そば)は昭和46年(1971年)に完成、翌1972年札幌冬季五輪のアイスホッケー会場になりました。その後、通年型スケートリンクとして使われ、国際大会なども開催してきましたが、老朽化のため建て替えることになりました。
新月寒体育館は、2030年札幌冬季五輪が招致されれば、アイスホッケー会場とする予定でした。しかし、五輪招致は失敗に終わりました。ただし、「五輪招致にかかわらず現在の月寒体育館は老朽化しているので、建て替えは必要」と、秋元市長は説明してきました。
また、現在の月寒体育館の隣には月寒屋外競技場もあり、ラグビー場、弓道場、テニスコートなどがあります。
札幌市は、これら月寒体育館と月寒屋外競技場の機能を札幌ドーム隣接の北海道農業研究センターの土地に一括移転、整備するスポーツ交流拠点構想(スポーツパーク構想)を描き、市民に公表しました。これがまちづくりの青写真だったはずです。
ところが、突然、新月寒体育館の建設場所を札幌ドーム駐車場にする方向という報道がなされました。
清田区内の町内会長らからは「これまで市が言ってきたことと違う。地下鉄の清田方面への延伸への影響が出るのでないか」など不満の声が出ています。
9月28日の札幌市議会で自民党の代表質問に立った山田洋聡市議(自民党、清田区)も「私たち札幌市民とりわけ清田区民にとりまして地下鉄50㎞構想(注)に基づく清田区への延伸は清田区民50年来の悲願であり、新月寒体育館につきましては清田区側である札幌ドーム東側に整備してほしいと願っております。このことを札幌市としても認識した上で整備していくことを強く要望させていただきます」と市側に農業研究センターの土地での建設を求めたのです。
札幌市が突如、新月寒体育館の建設場所を札幌ドーム駐車場にしたのは、国が農業研究センターの土地を売ってくれないからだといいます。
北海道農業研究センターがある場所は国有地です。報道によると、札幌市は国側との土地譲渡の交渉で、国側から「五輪招致が土地売却の前提条件」とか「五輪という国家プロジェクトが来ないなら、土地は譲らない」などと言われたとのことです(北海道新聞)。
まちづくりに必要な国有地を地元自治体が求めているのに、なんで「五輪が前提」なのでしょう。「農業研究のために、あの土地は譲れない」というのであれば、納得もできますが、「五輪が来ないなら譲らない」という国の説明は納得いきません。
ちなみに、札幌市がまちづくりのために求めている北海道農業研究センターの土地(国道36号と羊ケ丘通に挟まれたエリア)には研究用の水田があり、稲作の研究が行われています。今の時代、大都市札幌のど真ん中で、北海道の稲作研究をする必然性はあるのでしょうか。あの土地はもっと有効活用の道があるように思えてなりません。
また、札幌市が新月寒体育館の建設を急ぐのは、レバンガ北海道がプロバスケットボールBリーグにあたるトップカテゴリーの参入条件を満たすアリーナを2028年秋までに必要としているからだといいます。このために急いでドーム駐車場を潰してまで造ってしまうのですか。レバンガ北海道のアリーナ整備は、他に何かいい方法はないのでしょうか。
新月寒体育館を札幌ドーム駐車場を潰して造るとなると、札幌ドームの駐車場の台数が大幅に減ることになります。日本ハムが撤退し、ただでさえ経営が厳しくなっているのに、駐車場を減らしていいのでしょうか。理解できません。
さらに、札幌ドームと新月寒体育館という2つの大きな施設が肩を接して狭苦しそうに建つ姿は、雄大な北海道のイメージとはかけ離れているように見えます。
札幌市は、「札幌ドーム周辺地域におけるスポーツ交流拠点基本構想」(2022年1月)の中で、「羊ヶ丘展望台からの眺望等、自然的特性を踏まえた景観形成等に配慮する必要がある」と明記しているではないですか。新月寒体育館をドーム横にくっつけるように建設したら、北海道らしい雄大な景観を大きく損ねることになりませんか。
札幌ドーム駐車場に新月寒体育館を造ることは、まだ正式に決定したわけではないというので、ぜひ市には再考していただけないものでしょうか。
※地下鉄50キロ構想
札幌市が昭和54年(1979年)に立てた地下鉄建設構想。南北線、東西線、東豊線3線で総延長50キロの地下鉄網を建設するというもの。福住―清田間以外は全て計画通り建設、運行し、残るは福住―清田間だけとなっている。
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