札幌市は、「地域交流拠点清田の拠点形成に向けた官民連携によるまちづくりの基本的な考え方」という構想を発表しました。10月30日から12月8日まで、市民からパブリックコメント(住民から意見募集)を行っており、12月末には、計画を策定するといいます。

札幌市が公表した「イオン平岡と清田地区の連動」イメージ図。「平岡3条5丁目地区」とはイオン平岡のこと。麗々しい言葉が並んでいますが、何をどうするのかさっぱり分かりません。
しかし、この提案、唐突かつ一方的に上から清田区民に降りてきた感がいっぱいで、内容も違和感や疑問点が多々あるシロモノです。12月末には策定すると市は言っていますが、拙速は避けるべきであり、もっと広く区民の議論を先に行うべきではないでしょうか。

地域交流拠点の形成が望まれている清田地区
地域交流拠点「清田」の場所は、清田区役所や西友清田店、北洋銀行、北海道銀行など各銀行支店、清田病院、清田整形外科病院、あしりべつ病院などの医療機関、「きのとや」、居酒屋「炎」、「宮田屋珈琲」などお店が集積する一角(清田地区)です。
地域交流拠点とは、一般に、地下鉄やJRなどの交通機能のほか、区役所などの公共施設や商業施設、医療、福祉、金融機関などの都市機能施設などのある場所のことです。その場所に行けば、ある程度の用事が一度にこなせる場所という意味合いです。
札幌市は平成24年(2012年)、「札幌市まちづくり戦略プラン」を策定し、この中で地域の生活を支える中心的な拠点として、「清田」を含む市内17カ所を地域交流拠点に位置付けました。さらに平成28年(2016年)には、17カ所のうち清田、新さっぽろ、真駒内、篠路の4カ所を「先行的に進めるべき拠点」としました。
しかし、清田だけは全く拠点づくりが進んでいません。その原因は明らかです。清田だけ地下鉄駅もJR駅もなく、交通結節点になっていないからです。他の拠点は、地下鉄駅あるいはJR駅が中核になり、バスターミナルも形成され、自然と人や都市機能が集まる構図になっています。
清田区と豊平区の町内会連合会でつくる地下鉄東豊線建設促進期成会連合会は、ここ数年、毎年のように「地域交流拠点清田を形成するためには地下鉄延長が必須」「市は、清田地区を拠点に位置づけたのに何もしていない」と札幌市に意見を申し入れてきました。そして、市が示してきたのが、この「地域交流拠点清田の拠点形成に向けた官民連携によるまちづくりの基本的な考え方」という構想です。
では、この構想を見てみましょう。

イオンモール札幌平岡
官民連携とは、イオン平岡(イオン北海道)と札幌市の連携という意味です。市の構想発表に合わて、イオン北海道も基本的な構想を今年8月に発表しています。両方の構想から、「イオン平岡と連携した清田地区の拠点形成がどんなものなのか」を探ってみましょう。
それによると、この構想は一言でいえば、イオン平岡が店舗を増築・拡大して、その人の流れを区役所のある清田地区に波及させようという構想のようです。
具体的には、イオンタウン札幌平岡を「再構築」し、その敷地に「地域の方々が安心して住みつづけるための機能を付加する」としています。具体的にどういうものにするのかは言及がなく、分かりません。
また、イオンホールを新設し、構想では落語会や各種イベント、プロレス興行などが例示されています。カフェ、レストランも整備するそうです。

イオンの森
また、今は全く使われていないイオン平岡駐車場に隣接する「イオンの森」について、一部開発して「森の中のレストラン」を新設し、懇親会や宴会の場にも使えるようにする構想が描かれています。ネイチャーアスレチックや散策路も整備するとしています。
コンサートやマルシェなどができるコミュニティ広場や保育園なども検討するとしています。

イオン北海道の資料
そして、これらのイオン平岡の施設再整備によって創り出すにぎわいを清田地区に波及させていくとしています。イオン平岡と清田地区はおよそ1.7㎞離れています。地域の人は一般には歩いて移動する距離ではありません。そこで、構想では、両地区をつなぐ手段として「交通利便性の向上」を検討、つまりバスを増便するということのようです。
この構想で、唯一、地域交流拠点清田の形成に結び付きそうなのは、清田区民センターを将来、清田区役所近くに移転する構想だけのような気がします。この点は納得、評価する区民も多いのではないでしょうか。問題は早くやるかどうかです。
イオンが清田区のために、さまざま尽力しようとしていることはとてもありがたいと思います。しかし、イオン平岡と連携するという市の構想には疑問点がたくさんあります。
■疑問点1 イオン平岡が施設を増築・拡大することは、地元の区民も期待があるでしょう。しかし、それがどうして距離の離れた清田地区の地域交流拠点の形成になるのか、これがさっぱり分かりません。
バスを増便して繋ぐといっても、イオン平岡に用事のある人が、ついでに用もないのに清田地区までバスに乗って行きますか。
■疑問点2 なぜ、距離の離れたイオン平岡との連携なのでしょうか。清田地区には、同じ大型商業施設として西友清田店があり、ほかにも多くの地元の飲食店やお店があります。銀行や医療機関、企業なども清田地区には多くあります。それらとの官民連携はどうして図られないのでしょうか。なぜイオン平岡だけなのでしょうか。
■疑問点3 清田区が作成した「清田区まちづくりビジョン2020」(目標年次2020年)の総括がまったくありません。清田区は豊平区から分離して誕生した際、まちづくりの指針となる「清田区まちづくりビジョン2020」(1999年策定)を区民とともに策定しました。

「清田区まちづくりビジョン2020」に記載された地域中心核清田のイメージ図
この中で、区役所がある清田地区一帯を商業施設や文化施設、地下鉄清田駅を中心に「地域中心核」として整備するということが、イメージ図付きではっきりと記載されています。この「まちづくりビジョン2020」は、まさに今年2020年が目標年次です。
しかし、市の構想には、この「清田区まちづくりビジョン2020」の総括も言及も一切ありません。唐突に「イオン平岡との官民連携」が飛び出してきているのです。この乱暴なやり方は、とても行政のやることとは思えません。
■疑問点4 本来は地域交流拠点形成の中核となるはずの地下鉄清田延伸問題について、具体的な言及がありません。ただ「冬季オリンピック・パラリンピック招致に合わせて行う札幌ドーム周辺の土地利用の在り方の検討を踏まえて地下鉄東豊線の清田方面延伸の可能性を検証する」という従来の市の方針をなぞって触れているだけです。素通り感いっぱいです。
■疑問点5 市の進め方にも疑問を感じます。区民の多くが知らされないまま、突如、上から降ってきた今回の構想。10月30日~12月8日までパブリックコメントを募集して、12月末には計画を策定すると一方的に宣言するのは、あんまりです。
本来はパブリックコメントの募集を開始する前に、「広報さっぽろ」清田区版に掲載し、広く区民に知らせて議論を呼び掛けるのが筋だと思います。「清田区まちづくりビジョン2020」を策定したときは、およそ2年かけて区内各界の意見を聞き、公開討論会を開催し、2度に渡る住民アンケートを行うなど住民参加で計画を作りました。今回とは雲泥の差です。
市の構想では「イオン平岡の増床・拡張がなぜ清田地区の拠点形成につながるのか」がさっぱり見えてきません。抽象的な言葉が麗々しく並べられているだけで、構想自体が生煮えの感がします。
区民からは「むしろ地域交流拠点清田の形成が遠のいていく感じ」「清田区の将来ビジョンが示されない中での提案には唐突感と違和感がある」といった声が出ています。
この構想の資料は、区役所総務企画課広聴係と清田区内の各まちづくりセンターで配布しています。市役所のホームページでもご覧になれます。
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