札幌市清田区の里塚霊園内に札幌市里塚斎場(火葬場)を建設する見返りに、地下鉄東豊線を清田まで建設する―札幌市は、里塚霊園内に火葬場を建設する際、そう地元に約束していました。市は約束を果たしてください。

清田への地下鉄建設を条件に建設された里塚斎場(火葬場)=札幌市清田区、里塚霊園内

 里塚斎場は札幌市の火葬場で、昭和57年(1982年)8月に着工し、昭和59年(1984年)6月に完成、翌7月から使用開始しました。

 札幌市には火葬場が里塚斎場(清田区里塚)と山口斎場(手稲区手稲山口)の2か所あり、概ね豊平川から東側(白石区、厚別区、豊平区、清田区、南区)の人が亡くなると、里塚斎場を使用し、西側は山口斎場を使用することになっています。

 この里塚斎場は、平岸火葬場(豊平区平岸5条14丁目)を移設する形で建設されました。平岸火葬場は昭和19年(1944年)、平岸霊園の隣に建設された施設でした。しかし、設備の老朽化と周辺の都市化により、札幌市のはずれの里塚霊園への移設を市は計画しました。

里塚斎場

 そして、昭和50年(1975年)頃から住民の同意取り付けに動いたのです。

 当時を知る複数の人に聞いたところ、札幌市は里塚や清田地区などで説明会を何度も開催したようです。

 こうして、札幌市は里塚や清田地区住民の合意取り付けに6年かかり(北海道新聞)、ようやく昭和57年(1982年)に、着工にこぎつけたのです。

 当時を知る里塚地区の住民は「火葬場から出る煙の問題とか、ずいぶんと心配しました。署名活動もした記憶があります。でも、市は清田まで地下鉄を建設すると言ったので同意したのです」と言います。

 こうして札幌市は、最新鋭の設備を整えることも約束し、住民合意のもと、里塚斎場は建設されましたが、住民にとって決定的だったのは「地下鉄の清田までの建設」でした。

 「里塚斎場を建設する見返りに、清田まで地下鉄を造る」という話を、「私も市が開催した説明会で聴いた」という高齢の方は何人もいらっしゃいます。市は、地下鉄建設を条件に里塚斎場建設を進めたことは紛れもない事実です。

 事実、当時、札幌市は地下鉄を清田方面まで建設する計画を立てていました。板垣武四市長の時代です。

 市は、里塚斎場着工の3年前の昭和54年(1979年)、「地下鉄50キロ構想」を打ち出しました。これは、南北線、東西線、東豊線の3線合計50キロを建設・整備していくという札幌市の地下鉄建設基本構想です。東豊線は清田(北野)まで建設する計画でした。

 札幌市は、この「50キロ構想」にもとづいて、着々と地下鉄を建設していきました。最後に残ったのが東豊線の福住-清田間です。

 東豊線の延伸ルートは当初、「福住」の次の駅は「共進会場前」で、北野通を通って「北野」(北野通と清田通の交差点)までの計画でした。

 ところが、1997年に清田区が誕生し、区役所が国道36号線沿いにできたこと、札幌ドームが国道36号線沿いに建設されたことを踏まえ、市は延伸想定ルートを北野通から国道36号線に変更し、終点は「清田」(地域交流拠点清田=西友清田店、清田区役所がある付近)としました。

 板垣市長の後任の桂信雄市長は2001年、札幌市総合交通対策調査審議会の答申を踏まえ、改めて清田までの延伸方針を打ち出しました。しかし、そのあとの上田文雄市長が「採算性に難がある」として、地下鉄清田延伸を一転、凍結し、今日に至っています。

 この間、1997年に清田区が豊平区から分区して誕生した際、清田区は、まちづくりの基本方針を定めた「清田区まちづくりビジョン2020」を策定しました(1999年)。そして、この中で清田区の中心核(地域交流拠点清田)までの地下鉄延伸を打ち出したのです。

 清田区の初代区長は、清田区の発足に当たり、「地下鉄東豊線の延長は地域の発展につながる重要な要素」と言っていたのです(北海道新聞1997年11月1日)。

 札幌市は、里塚斎場の際の約束も反故(ほご)にしたままですが、住民と一緒に自ら作った「清田区まちづくりビジョン2020」も無視したままです。

 そして、札幌市は今、「地域交流拠点清田が、地下鉄がなくて進まないので、イオン平岡を地域交流拠点清田に組み入れて、イオン平岡との連携で交流拠点清田をつくる」などと訳の分からないことを強引に進めています。拠点清田とイオン平岡は移動距離(徒歩)で2.4㎞も離れているのに、どうして拠点清田なのか、どうしてイオン平岡の人流が拠点清田に流れていくのか。あり得ません。

 札幌市の地域交流拠点は、清田以外16か所すべてが地下鉄駅(またはJR駅)とバスターミナルの交通結節点になっています。地域交流拠点清田に必要なのは「イオン平岡との連携」なんかではなく、地下鉄清田駅の設置です。

 札幌の地下鉄は市営です。公営交通です。公営交通は、採算性だけで議論するべきものではありません。地域住民の足の確保はもちろんですが、ほかにも人の交流の促進や地域経済の活性化、地域福祉の増進、札幌市全体の均衡ある発展など総合的に判断すべきです。

 横浜や名古屋、京都、福岡など日本の主要都市の公営地下鉄はどこも累積赤字を抱えながらも運営されています。公営交通だからです。

 札幌の地下鉄も東西線と東豊線は累積赤字を抱えながら運営しています。公営交通だからです。それなのに、東豊線福住-清田だけ「採算性に難がある」といって、建設されません。

平岸火葬場の跡に建つ平岸プール

 いい加減、清田だけ差別し、虐めるのはやめてもらえませんか。

 平岸火葬場は、里塚斎場が完成したことにより、昭和59年(1984年)に廃止されました。その跡には、立派な札幌市平岸プール(温水プール)が設置され、今日に至っています。

 いいですね、よその地区は。地下鉄があって、立派なプールもあって。清田は地下鉄がなくて、あるのは霊園と火葬場です。

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