札幌市清田区真栄4条1丁目の急傾斜地(市有地)を道と札幌市が土砂災害計画区域と土砂災害特別警戒区域に指定しようとし、地元の真栄第四町内会(吉田和久会長)が反発している問題で、道と札幌市は2月16日(日)、真栄第四町内会への説明会を一年ぶりに同町内会館で開きました。

土砂災害特別警戒区域指定を巡る住民説明会=2025年2月16日、真栄第四町内会

 席上、札幌市側は「必要あれば危険を除去するハード対策工事を行う」と約束しました。「危険だというなら、市有地なのだからまず危険除去の工事をやるのが先」という住民側の反発でこじれていた問題がようやく一歩前に動き出した感じです。

警戒区域の指定は当該崖地だけでなく右側の住宅にも及ぶ=真栄4条1丁目

 問題の急傾斜地は札幌市有地で、市が管理している樹林地(清田真栄特別緑地保全地区)です。もともとは厚別(あしりべつ)川の河岸段丘(左岸側)で、崖高18~23m、勾配40~45度の崖が長さ350mにわたって続き、崖下は真栄第四町内会の住宅地になっています。

 ここは札幌市が40年ほど前に宅地開発を許可した場所です。道によると、この地区で住宅40戸が土砂災害警戒区域(イエローゾーン)に、住宅7戸がより危険度が高い特別警戒区域(レッドゾーン)にかかるといいます。

 この崖地を道と札幌市が土砂災害計画区域と土砂災害特別警戒区域に指定すると発表したのは2018年9月30日に清田区民センターで開催した清田区民説明会の場でした。「指定はするけど、防災工事(ハード対策)は行わない」という説明に、住民から反発と疑問が噴出しました。

 とりわけ真栄4条1丁目の崖地は市有地であり、市が管理している土地です。「市有地が危険というなら、市民の安全安心のために、市が責任もって危険除去するのは当たり前ではないか」というわけです。

 事態を憂慮、重視した真栄第四町内会は、「指定には同意できない」として、2018年10月と2022年3月の2回、道と札幌市に要望書を提出しています。内容は次のようなものです。

1 高低差と勾配だけで機械的に指定するのではなく、本当に危険なのか地質調査をしてほしい。

2 市有地なのだから、危険というなら必要なハード対策工事をしてほしい。

3 当該崖は、特別緑地保全地区に指定されていることから、ハード工事は緑を保全しながら補強するノンフレーム工法(崖面をコンクリートで覆うのではなく、樹木を切らずに緑を保全したまま崖面を強化する工法)を採用してほしい。

4 レッドゾーンに指定される予定の宅地にかかる斜面から始めるなど危険度に応じた順位で対応をしてほしい。

5 ハード対策工事について、札幌市との間で具体的な確約が取れるまで土砂災害区域の指定はしないでほしい。

 「レッドに指定」と言われた区域に住宅がある住民の中には「大雨のたびに、夜、崖から遠い部屋に移動して寝ている」という人もいて、事態は深刻です。

札幌市と道の担当者と住民が合同で崖地調査を実施したこともあった=2021年11月29日

 これまで道と札幌市は、真栄第四町内会と説明会や協議の場を何度か持ち、現地の崖面調査を一緒に行ったこともありました。その上で昨年2月18日、道と札幌市は説明会を開催しましましたが、「ハード対策はやらない。崖は植生管理で見守る」という市の説明に住民側は反発、再び物別れになっていました。

 土砂災害警戒区域の指定に町内会などの地元住民の合意は必要条件ではありませんが、「市有地が危険というなら、市が危険除去を行うのは当然ではないか」という町内会側の要望にはもっともな点があり、道も市も住民側の意向を無視して強行できない状況が続いていました。

 このため市は、住民理解を得るために令和6年度、崖地の調査などを専門業者などに発注して実施、対策をまとめました。これを受けて今年2月16日、一年ぶりに説明会が開催されました。

対応策を説明する札幌市と道の担当者=2025年2月16日

 市側(みどりの管理課)は令和6年度に実施した対応を説明。それによると、市は浸食の可能性がある部分(面積118㎡)において樹木の除去および植生マット設置による法面保護を行いました。

 さらに、法面の変状に詳しい専門業者による調査を行いました。その結果、「法面全体では不安定な落石、浮石等はない」「一部法面で、過去の応急対策で実施した『土のう詰めと抑え杭』が劣化しており修繕が必要」「法面の多くについて小規模の変状はあるが、植生が繁茂し安定している。今後は定期的に点検していくことが望ましい」との専門業者による調査結果が得られたと説明しました。

 そして、市は今後の対策を説明。それによると、令和7年度以降毎年、①表層の崩れや浸食が進行するなど斜面の変状が起こる可能性がゼロではないため、月1回、市がパトロールによる斜面の経過観察を行う②専門業者による調査を年1回(11月頃)行う③経年劣化した「土のう詰め」と「抑え杭」を修繕する―と説明しました。

 その上で、市側は「必要あれば危険を除去するハード対策工事を行う」と約束しました。

 この説明に、町内会側は「令和6年度に一定の調査が行われ、さらに継続して調査していくことなどが示された。しかも『必要ならハード対策もやる』とのことで、一歩前進した。あとは、レッドの法面などを重点的、優先的に対策するなど優先順位も付けてほしい」と一定の評価をしました。

 土砂災害の区域指定がこじれた背景には、指定により地価の下落などを心配する住民の不安もあります。住宅は一生に一度の大きな買い物です。当初、道と市がそうした住民の気持ちに寄り添った態度でなかったことも問題が長引いた要因です。

 今でも、住民の中には「ハード対策工事をやってレッドゾーンの指定から外してほしい。国交省の資料によると、道外では、そうした事例が結構あり、年々増えている」という人もいます。

 道と札幌市は、2月16日の説明会のやり取りを受けて、真栄第四町内会から出されていた要望書に文書で3月末までに回答すると明言しました。回答書の内容に町内会側が納得すれば、ようやく土砂災害の区域指定に進むことになります。

■これまでの経緯

□2018年9月30日 道と札幌市が清田区内の土砂災害警戒区域指定に関する住民説明会を清田区民センターで開催。真栄4条1丁目の当該急傾斜地も指定地の1つであることが突如発表される。

□2018年10月25日 真栄第四町内会が道と札幌市に要望書を提出。

□2018年11月20日 道と札幌市による説明会が真栄第四町内会館で開催。道の説明があいまいで紛糾、散会。

□2021年10月2日 道と札幌市の説明会が真栄第四町内会館で開催。

□2021年11月29日 札幌市と道、真栄第四町内会が合同で現地(急傾斜地)状況確認調査を実施。調査後、真栄第四町内会館で道と札幌市、住民側が意見交換会。札幌市の「危険除去のハード対策工事は行わない。植生管理で対応する」との姿勢に、住民側は反発。

□2022年3月30日 真栄第四町内会が道と札幌市に「危険という指定をするなら、当該急傾斜地は札幌市有地なのだから、危険を除去する工事を先に行ってもらいたい。現状では指定に同意できない」と要望書(意見書)を提出。

□2023年度 札幌市が現地調査を実施。

□2024年2月28日 道と札幌市が真栄第四町内会館で説明会を開催。札幌市の「ハード対策工事はやらない。植生管理で見守る。何らかの兆候があればハード工事対策をやる」という説明に、住民側が「兆候が出てからでは遅い」と猛反発。町内会側は「現状では指定に同意できない」と返答。

□2024年度 札幌市が一部の法面保護(植生マット設置)と専門業者による法面現地調査を実施。

□2025年2月16日 道と札幌市が真栄第四町内会に説明会を開催。札幌市は2024年度の市の対応を説明し、町内会側は一部法面保護と業者による調査実施を一定評価。そして札幌市は最終回答書を3月末までに真栄第四町内会に出し、そこに「必要あればハード対策工事を実施する」旨を明記することを約束。

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