清田区真栄4条1丁目の急傾斜地(崖地)を北海道と札幌市が土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域に指定しようとし、地元の真栄第四町内会(吉田和久会長)が反発していた問題は3月26日、北海道・札幌市側と真栄第四町内会が歩み寄り、同町内会が指定を受け入れました。

札幌市と道から回答書を受け取る真栄第四町内会の吉田和久会長=2025年3月26日、真栄第四町内会館
真栄第四町内会が指定を受け入れたのは、長年の交渉の末、札幌市から「崖面の変状があれば、危険除去のハード対策の検討を含めた必要な対応を行う」「特別警戒区域(レッドゾーン)に留意した崖地の経過観察、調査を行う」との前進回答を得たからです。
北海道と札幌市は3月26日、真栄第四町内会館において上記趣旨を記載した回答書を同町内会の吉田会長に手交しました。
これにより2018年9月の指定方針の発表から実に6年半かかり、当該崖地が土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域に正式に指定されることになりました。

真栄4条1丁目の崖地と住宅地
問題の崖地は、清田真栄特別緑地保全地区に指定されている市有地で、樹林地になっています。厚別(あしりべつ)川の河岸段丘で、崖高18~23m、勾配40~45度の崖が長さ350mにわたって続き、がけ下は真栄第四町内会の住宅地になっています。
この崖下の住宅40戸が土砂災害警戒区域(イエローゾーン)にかかり、住宅7戸がより危険度の高い特別警戒区域(レッドゾーン)にかかると言われています。

道と札幌市が真栄第四町内会に回答書を手交した協議の場=2025年3月26日、真栄第四町内会館
問題が表面化したのは2018年9月30日、清田区民センターで道と札幌市が開催した土砂災害警戒区域および特別警戒区域指定の説明会でした。「指定はするけど、危険除去のハード工事はやらない」という説明に、住民から反発と疑問が噴出しました。
特に、真栄4条1丁目の崖地は市有地であり、「危険だと宣言するなら、市有地なのだから市が危険除去するのは当たり前ではないか」というわけです。
また、がけ下の住宅地は札幌市が40年ほど前に宅地開発許可を出し、分譲された住宅地です。それが30年以上たってから、突然、「その土地は危険だ」と、市が言いだしたのですから住民が、困惑と反発をするのも無理ありません。
不動産鑑定士によると、特別警戒区域に指定されると、実際に地価が下がるといいます。宅地を買い、家を建てるのは、庶民にとって一生に一度の大きな買い物です。地価が下がるというのは、財産の棄損でもあるわけです。その「がっかり感」「痛み」に、道と市の担当者は思いを馳せたことがあるのでしょうか。
危険発生源が市有地なのだから、市が危険除去の工事を行うべきという町内会側の主張には道理があり、問題が長引いた大きな要因です。
実際、ハード対策を行ってレッドゾーンが解除になった例が道外では幾つも報告されています。こうした事例に期待を持った住民もいたのです。
事態を重視した真栄第四町内会は2018年10月と2022年3月の2回、道と札幌市に要望書を提出、善処を求めてきました。主な内容は次の通りでした。
1 高低差と勾配だけで機械的に指定するのではなく、本当に危険なのか地質調査をしてほしい。
2 市有地なのだから、危険というなら必要なハード対策工事をしてほしい。
3 当該崖地は、特別緑地保全地区に指定されていることから、ハード工事は緑を保全しながら補強するノンフレーム工法(崖面をコンクリートで覆うのではなく、樹木を切らずに緑を保全したまま崖面を強化する工法)を採用してほしい。
4 レッドゾーンに指定される予定の宅地にかかる斜面から始めるなど危険度に応じた順位で対応をしてほしい。
5 ハード対策工事について、札幌市との間で具体的な確約が取れるまで土砂災害区域の指定はしないでほしい。

札幌市と道の担当者と、町内会住民が合同で崖地に登り調査したことも=2021年11月29日
これまでに道と札幌市は、真栄第四町内会と何度か話し合いの場を持ち、現地の崖面を一緒に登って調査したこと(2021年11月29日)もありました。
しかし、「ハード対策はやらない。崖地は植生管理で見守る」という市の説明に住民側は反発、何度も物別れに終わっていました。
土砂災害警戒区域の指定に町内会など地元住民の同意は必要ありませんが、「市有地が危険というなら、市が責任をもって危険除去するのは当然」という町内会側の要望にはもっともな点があります。このため道も市も住民側の意志を無視して強行できない状況が続いていました。
事態を打開しようと、札幌市が本腰を入れて前向きに動き出したのは昨年(2024年)からです。市は令和6年度、崖地の一部を保護(植生マット設置)し、さらに崖地の変状に詳しい専門業者を入れて現地調査を実施しました。
その結果、「一部法面で、過去の応急対策で実施した『土のう詰めと抑え杭』が劣化しており修繕が必要」「法面の多くは小規模の変状はあるが、植生が繁茂し安定している。今後は定期的に点検していくことが望ましい」との調査結果が得られたとのことです。
これを受けて市は今年2月、令和7年度以降毎年、①月1回、市がパトロールして危険の兆候がないか観察を行う②専門業者による調査を毎年11月頃に行う③劣化した「土のう詰め」と「抑え杭」を修繕する―との方針を町内会側に伝えました。
さらにその後、市は「特別警戒区域(レッドゾーン)に留意した崖地の経過観察、調査を行う」ことを町内会側に伝えました。こうした動きを町内会も評価し、土砂災害警戒区域の指定を受け入れることになりました。
ただし、道と札幌市の回答は、地域住民が望んだ100%の回答ではありません。

指定を受け入れた真栄第四町内会の住民。町内会員で顧問の宮下准一道議の姿も見えます。中央は吉田町内会長
回答書を受け取った吉田会長は、「当地域の本来の要望は『ハード工事による危険の除去』であり、特に『レッドゾーンに対する優先的措置』等により、住民の安心・安全が確実に図られることです。今後も引き続き、斜面に変化等がある場合には道と札幌市と意見交換していきたい」と注文を付けました。
道と札幌市は今後も協議の場を設けることを町内会側に伝えました。
■真栄4条1丁目の土砂災害警戒区域指定を巡る経過
□2018年9月30日 道と札幌市が清田区内の土砂災害警戒区域指定に関する住民説明会を清田区民センターで開催。真栄4条1丁目の当該急傾斜地も指定地の1つであることが突如発表される。
□2018年10月25日 真栄第四町内会が道と札幌市に要望書(1回目)を提出。
□2018年11月20日 道と札幌市による説明会が真栄第四町内会館で開催。道の説明があいまいで紛糾、散会。
□2021年10月2日 道と札幌市の説明会が真栄第四町内会館で開催。
□2021年11月29日 札幌市と道、真栄第四町内会が合同で現地(急傾斜地)状況確認調査を実施。調査後、真栄第四町内会館で道と札幌市、住民側が意見交換会。札幌市の「危険除去のハード対策工事は行わない。植生管理で対応する」との姿勢に、住民側は反発。
□2022年3月30日 真栄第四町内会が道と札幌市に「危険という指定をするなら、当該急傾斜地は札幌市有地なのだから、危険を除去する工事を先に行ってもらいたい。現状では指定に同意できない」と要望書(2回目)を提出。
□2023年度 札幌市が現地調査を実施。
□2024年2月28日 道と札幌市が真栄第四町内会館で説明会を開催。札幌市の「ハード対策工事はやらない。植生管理で見守る。何らかの兆候があればハード工事対策をやる」という説明に、住民側が「兆候が出てからでは遅い」と猛反発。町内会側は「現状では指定に同意できない」と返答。
□2024年度 札幌市が一部の法面保護(植生マット設置)と専門業者による法面現地調査を実施。
□2025年2月20日 道と札幌市が真栄第四町内会館で説明会を開催。札幌市は2024年度の市の対応を説明し、町内会側は一部法面保護と業者による調査実施を一定評価。そして札幌市は最終回答書を3月末までに真栄第四町内会に出し、そこに「必要あればハード対策工事を実施する」旨の記載を行うと約束。
□2025年3月26日 道と札幌市が真栄第四町内会に対して回答書を交付。「市は引き続き斜面の経過観察を行うとともに、専門業者による調査も実施する」「斜面の変状があれば、ハード対策など必要な対策を行う」「建物が土砂災害特別警戒区域に架かる箇所は、特に留意した経過観察と調査を実施する」との内容で、真栄第四町内会は前進回答があったとして、土砂災害警戒区域と特別警戒区域の指定を受け入れることを道と市に表明。
[広告]