北国札幌に、真っ先に春を告げるのは湿地に可憐に咲くミズバショウ(水芭蕉)です。「ひろまある清田」は今年、平岡公園青葉中央公園熊の沢公園星置緑地マクンベツ湿原のミズバショウを見てきました。

マクンベツ湿原=石狩市、2021年4月16日

 ミズバショウは札幌では4月に咲く花ですが、尾瀬の水芭蕉を歌った名曲「夏の思い出」という有名な歌では、夏の花というイメージです。前から不思議に思っていました。

「夏の思い出」
夏がくれば 思い出す
はるかな尾瀬 遠い空
霧のなかに うかびくる
やさしい影 野の小径(こみち)
水芭蕉の花が 咲いている
夢見て咲いている 水のほとり
石楠花(しゃくなげ)色に たそがれる
はるかな尾瀬 遠い空

 この歌は昭和24年(1949年)、NHK「ラジオ歌謡」でシャンソン歌手石井好子さんが歌って放送され、瞬く間に日本人の心をとらえました。作詞は江間章子さん(1913年―2005年)、美しいメロディーを作曲したのは中田喜直さん(1923年―2000年)。昭和37年(1962年)にはNHK「みんなの歌」でも紹介され、中学校の教科書にも掲載されました。

 この歌でミズバショウと尾瀬は一躍有名になりました。

 尾瀬は、群馬県、新潟県、福島県にまたがる高原で、中心の尾瀬ヶ原は日本を代表する高原の湿地で、標高1400m以上あるそうです。

 戦後まもなくNHKから「夢と希望のある歌を」と依頼された詩人の江間章子さんが思い浮かんだのが、戦時中の昭和19年(1944年)に木炭トラックに揺られて野菜の買い出しで訪れた尾瀬の情景だったといいます。それを詩にしたのが「夏の思い出」でした。

 江間さんは幼少の頃、岩手県の岩手山近くに住んでいました。そこはミズバショウが咲く地域でした。ただ故郷のミズバショウは、ほんの数本がひっそりと咲いているだけなのに、尾瀬で見たミズバショウは、地面が見えない程びっしりと咲いていたといいます。故郷の山麓に咲いていた懐かしい花が尾瀬ではまぶしく美しく見えたのでしょう。

ミズバショウの脇にはまだ残雪がありました=マクンベツ湿原、2021年4月16日

 ところで、高原の尾瀬でもミズバショウが咲くのは5月末から6月にかけてだそうです。夏休みに「尾瀬に行ってミズバショウでも見てこよう」と思っても、既に花は終わっています。

 では、なぜ「夏がくれば思い出す」「遥かな尾瀬 遠い空」「水芭蕉の花が咲いている」という詩になったのでしょうか。

 それは、俳句の季語を掲載している歳時記に、ミズバショウが夏の季語になっているからのようです。江間さん自身も「歳時記の影響だと思う」と言っていたそうです。

星置緑地=札幌市手稲区、2021年4月15日

 季語と実際の季節は若干のずれがあるのかもしれません。札幌ではミズバショウは「春がくれば思い出す」ですね。

 なお、東京などではミズバショウは簡単には見られません。本州では高原の湿地などで見られる花で、「遥かな尾瀬」まで行くことになるようです。札幌では身近に見ることができるミズバショウですが、東京あたりではちょっぴり高級イメージのある憧れの花なのかもしれません。

 「夏の思い出」を作曲した中田喜直さんは、ほかにも「雪の降るまちを」「ちいさい秋みつけた」「めだかの学校」なども作曲しています。美しいメロディーを生み出す作曲家のようで、昭和35年(1960年)にザ・ピーナッツが歌った美しい曲「心の窓にともし灯を」も中田喜直さんの作曲です。

[広告]