地下鉄の清田区へ延伸は、清田区民の長年の悲願です。しかし、札幌市は、ここ十年近く「開業後30年で総収入が総経費を上回らなければならないという国の基準がある。その基準をクリアできないので清田延伸は無理」と区民に説明してきました。上田前市長も秋元市長も言ってきました。

 ところが、この「国の30年基準」というもの、本当にあるのでしょうか。そして絶対的な基準なのでしょうか。

 札幌市の南北線、東西線、東豊線はどうなのでしょう。「30年基準」を満たしているのか、調べてみました。

札幌市営地下鉄路線図

 札幌市交通局の資料によると、南北線は昭和53年(1978年)の麻生―北24条の延伸開通から数えて30年目の平成19年(2007年)、累積黒字は654億1400万円で、「基準」を満たす合格でした。

 南北線はその後も黒字基調を続け、平成29年度末の累積黒字は1134億5500万円だそうです。南北線は優等生のようです。

 ところが、東西線は平成11年(1999年)の琴似―宮の沢の延伸開通から19年目の平成29年度末で、累積赤字が1136億7200万円もあるのです。あと10年余りで30年になりますが、とても累積黒字化は達成できません。

 東豊線はどうでしょうか。平成6年(1994年)の豊水すすきの―福住の延伸開通から24年目の平成29年度末で、累積赤字が2280億9700万円もあります。

 札幌市交通局は「東西線も東豊線も30年で累積黒字化は無理です」と言っています。

 東西線も東豊線も「30年で総収入が総経費を上回る基準」を達成できないにもかかわらず、福住や宮の沢への地下鉄延伸を札幌市は行ってきたのです。

 採算性は確かに重要ですが、まちづくりからの必要性、地域住民の交通アクセス向上、積雪寒冷都市における生活インフラとしての役割、地域住民の福祉向上、税負担の公平性など様々な観点から「延伸が必要」と政治判断、政策判断がなされたからではないでしょうか。

地下鉄清田延伸ルート

 ことさら福住―清田間だけ「30年基準」を持ち出し「延伸は困難」と言うのは、清田区民としては極めてアンフェアに思えます。

 ちなみに札幌市営地下鉄全体の累積赤字は、平成29年度末(平成30年3月末)で2283億1300万円です。南北線は累積黒字ですが、東西線と東豊線の累積赤字により、全体的には2200億円を超す累積赤字になっています。

 一時は4000億円超の累積赤字があったといいますから、累積赤字額はだいぶ減ってきました。これは札幌市交通局はじめ関係部局の相当の努力があったからと思われます。

 ちなみに、公営地下鉄事業を行っている都市は全国で8自治体あります。そのいずれも累積赤字を抱えています。平成28年度末の地下鉄事業の累積赤字額(累積欠損金)は次の通りです。

札幌市  2371億2700万円
仙台市    906億7500万円
東京都  2946億1800万円
横浜市  1704億5600万円
名古屋市 2482億2300万円
京都市  3077億1300万円
神戸市    786億5100万円
福岡市  1315億8100万円

 累積赤字を抱えながらも、これらはみな自治体が経営する公営交通です。採算性は大事ですが、地域の暮らしを支える路線、まちづくりに必要な路線として、必要だという「政治判断」「政策判断」があって、運営しているのではないでしょうか。

 なお、大阪市営地下鉄は平成22年(2010年)に累積赤字を解消し、2018年4月から民営化しました。

 さて、たびたび登場する「国の30年基準」ですが、国土交通省鉄道局都市鉄道政策課に問い合わせたところ、「明文化した規定はない」とのことです。

 鉄道認可の基準は「安定的かつ継続的な経営ができること」ということだそうです。そして「30年で収支が回れば継続的に運営できると判断されるが、30年はあくまで目安で、30年で収支が回らなければダメですよとは、どこにも記載はありません」とのことでした。

 札幌市は従来、この「国の30年基準」を唯一絶対的なモノサシのような言い方で清田区民や地下鉄東豊線建設促進期成会連合会(牧野晃会長、清田区、豊平区の町内会連合会などで構成)に説明してきましたが、どうも実際は違うのではないか、そんな思いがします。

 札幌市は昨年11月、従来の採算性の判断だけでなく、清田に地域中心核をつくるまちづくりの観点からも地下鉄延伸の検討を行う方針を明らかにしました。清田区民は、ここに大いに期待をしています。

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